【4月30日 AFP】ウクライナ東部ドネツク(Donetsk)州の前線にあるオチェレティネ(Ocheretyne)村に住む97歳のリディア・ロミノフスカさんは今月26日、地元がロシア軍から爆撃された後、安全な場所を求めて10キロの道のりを何時間も歩き続けた。

 数日後に同州ポクロウシク(Pokrovsk)の避難先のベッドでAFPの取材に応じたロミノフスカさんは、「ずっと歩き続けた。歩きに歩いた。へとへとだ」と話した。鮮やかなヘッドスカーフを巻いたロミノフスカさんは、弱々しいが、体力を回復しつつあるように見えた。

 ロシア軍は、2月にアウディーイウカ(Avdiivka)を掌握して以降、ドネツク州で西方に前進を続けている。ここ数日、近郊のオチェレティネ村での戦闘が激化し、ロシア側は同村の一部と周辺地域の村を制圧したと主張。ウクライナ軍のオレクサンドル・シルスキー(Oleksandr Syrsky)総司令官も28日、戦況悪化を認めている。

■「おばあちゃん、どこへ行くの?」

 ロミノフスカさんは、着の身着のままでオチェレティネの自宅を後にした。

「誰が砲撃したのかは神のみぞ知るところ。誰一人、目にしなかった。爆発音だけが聞こえた。どこだったか、何の音かも分からなかった」と話す。

 ロシア軍の侵攻を受ける以前は、村には3000人ほどが住んでいたが、今は大部分ががれきと化している。村を通り抜ける際に兵士数人の遺体を見つけたという。

「ほぼあらゆる物が燃えていた。彼ら(ロシア兵)は家という家を破壊した」

「でも、歩いていても人っ子一人いなかった。聞こえてくるのは銃声だけ。のろのろ歩いている間に撃たれるんじゃないかと思った」と言う。

 板切れをつえ代わりに、オチェレティネから西に約30キロ離れたポクロウシクに向かって数時間歩き続けていると、車に乗った2人のウクライナ兵に「おばあちゃん、どこへ行くの?」と声を掛けられた。

「行ける所まで行って、草むらで一晩過ごすつもり」だと答えると、兵士はサンドイッチをくれた。

 その後、兵士らの連絡を受けた警察によって、ポクロウシクまで送り届けてもらったという。

 地元警察のパブロ・ジアチェンコ氏は、ロミノフスカさんが村に最後まで残っていた住民の一人だとみている。

「何人かはまだ村にいるが、その人数も、生死も不明だ」と話し、「敵の砲撃がやまない」ため、周辺の村も非常に厳しい状態にあると説明した。(c)AFP/Emmanuel PEUCHOT